10月10日
神戸 福原 丸萬

 土曜のタ方早くに福原の居酒屋『丸萬』へ。
 長くされてた板前の「ヒデさん」が亡くなられて、この店の息子さんのご主人(といってもアラフィフだと思う)に代わっている。今まで奥で焼きものと揚げ物をもっばら担当されていて、割烹でいう「向こう板(あるいは庖丁方)」をするようになった感じだ。
 「ぼくがまだ小学生のころから、もう居てましたからね」とご主人。
 アジの南蛮漬け、パイ貝の煮たもの、イカウニ、穴子の酒蒸しなど、この居酒屋ならではの酒肴の味はもちろん変わらない。
 カウンター奥で日本語がすごくうまいスイス人のお客(大学の先生ということだ)が来ていて、メニューにない鶏のナンコツを白ごはんで食べていた。
 日本酒を升で所望して、ご主人は「あそこに置いてあったんちゃうかな」と出してきた。しげしげと「日本の工芸はすばらしい」と見て賞めるスイス人のお客。
 こういうのが、いつもの酒をもっとうまくさせてくれる。

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江弘毅

編集者・著述家。雑誌ミーツリージョナルを立ち上げ、1993〜2005年編集長を務める。
2006年編集出版集団140B創立。著書「有次と包丁」(新潮社〕、「飲み食い世界一の大阪」(ミシマ社)など多数。毎日新聞連載中の「濃い味、うす味、街のあじ。」の単行本化、140Bから7月15日発売。

江弘毅