1月14日
大阪 ハービス大阪 ちゃんと。

 90年代前半から2000年頃にかけて、無国籍創作料理店の『ちゃんと。』 が一世を風扉した。すぐに心斎橋に森田恭通デザインによる基幹店『ケンズダイニング』をオープンさせ、東京やニューヨークにも進出したことを憶えている。
 創作料理というのは素性が分からない思いつき料理のような感じで、個人的には口が合わないというか、なんとなく好きになれなかったが、この「キムチの王様」はその頃何回か食べた。
 第1回日経レストランのメニューグランプリを獲得したとかで、絶対これを注文しなくては、といった大変な人気を博した。この時代はまだまだ情報誌やグルメ誌が世の中に対して絶大な影響力を持っていた。
 この「キムチの王様」について、1店1ヶ月あたり1tのキムチを使う、という爆発的な人気ぶりをメディアは報じたのだが、わたしは、阪神淡路大震災の後、2000年になってぐらいから自分のやっている雑誌や書いている文章で、なんとなく『ちゃんと。』的な飲食店に一線を画すようになった。浪花座の跡にたこ焼きや串かつを売りにしたフードテーマパークの「道頓堀極楽商店街」の空気も街的ではないと感じたし、広告代理店的でありファッション誌的な「仕掛け」の匂いがしていたのが鬱陶しかった。

 ちょうど編集しているミーツ別冊の「三都市本」シリーズが東京でプレイクし始めた最中で、「こうさんは避けているな」などと、そのころ 『ちゃんと。』や極楽商店街をプロデュースしていたソルトコンソーシアムの井上盛夫くんに面と向かって言われたりした こともある。
 事実、10万部は軽かった02年の「大阪本」のタイトルは「うわベだけのお店紹介は、もういいんです。」で、トップページは『松葉家本舗』のおじやうどんと『道頓堀今井』のきつねうどん、続いて『八重勝』『グリルマルヨシ』『オモニ』と続いていた。
 誤解のないように言っておくが「キムチの王様」はうまい。鯛、貝柱、海老の海鮮、貝割れ、三つ葉の野菜やナッツ類を白菜キムチで包んだこの料理は傑作だと思う。
 皿の上のことを言ってるのではない。時代というものに揮発させている空気のことを言ってるのだ。
 久しぶりに「キムチの王様」を食べてそんなことを思う。

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江弘毅

編集者・著述家。雑誌ミーツリージョナルを立ち上げ、1993〜2005年編集長を務める。
2006年編集出版集団140B創立。著書「有次と包丁」(新潮社〕、「飲み食い世界一の大阪」(ミシマ社)など多数。毎日新聞連載中の「濃い味、うす味、街のあじ。」の単行本化、140Bから7月15日発売。

江弘毅