8月2日
神戸 北野 ル・パッサージュ

 唐突だが、フランス料理店と鮨屋は似ている。それはシェフや板前と親しくなればなるだけ、余計おいしく楽しく食べられるからだ。
 それは「上客」(エラそうや)とか「ソワニエ」(気色悪う〜)いうスタンスではない。要するに「店と客」の関係性の網の目からこぼれ落ちる、違った関係性である。なかでも嫁はんの実家が鮨屋だったり、小学校の同級生がシェフをしているというのが最高だと思う。
 食べに行けば絶対「良くしてくれる」。それは「損得」とか「コストパフォーマンス」とかのそういう食べログ的な次元とはちょっと違う。
 わたしはフレンチも鮨屋も友人の店が数軒あるからラッキーだ。
 ただ「ツレと遊ぶ」というスタンスは駄目だと思う。なんぼツレであっても、料理をつくったり鮨を握ったりするそっちの方はあくまでも「仕事」である。だからベタついたり甘えたりして仕事の邪魔になったり、ほかの客が嫌な思いをするようなことをするのは御法度だ。友だちの店というのは難しいとこがあるものだ。
 春名シェフは神戸に住んで以来、20年以上の近所のツレであり、朝9時に元町駅へ向かう通勤ルートの魚屋の前で仕入れのときによく会う。原チャリに乗って買い出しに行くその格好はジャージ姿(夏なら短パン)であり、そこで魚屋の若大将を交えての立ち話は、まるでヤンキーのそれだ。
 さてこの日の料理。
 フォワグラ、ハモと松茸、豚。デザートは桃。この素材、この量。おおきに。

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江弘毅

編集者・著述家。雑誌ミーツリージョナルを立ち上げ、1993〜2005年編集長を務める。
2006年編集出版集団140B創立。著書「有次と包丁」(新潮社〕、「飲み食い世界一の大阪」(ミシマ社)など多数。毎日新聞連載中の「濃い味、うす味、街のあじ。」の単行本化、140Bから7月15日発売。

江弘毅