10月12日
大阪 文の里 松寿し

 画家の奈路道程さんの地元で、行きつけの『松寿し』へ毎日新聞の取材を兼ねて行く。
 座ってまずビールを注文すると、茹でたてのイカの耳が突き出しで出てきた。これは有難いな。気が利いているな。
 バッテラ、小鯛、穴子、海老と、大阪本流の押し寿司ばかりを1本づつ注文して、3人で「穴子いって、次は小鯛な」などと思い思い、出鱈目の順番で食べる。久々に「おお、これこれ、この味、この感じや」と押し寿司ばかりを爆食いする。
旧い商店街と住宅街の角地にある「家店」つまり商店建築は昭和14年のもの。戦災から焼け残ったものである。いろいろと補修したりやり直したりした痕跡があるが、阿倍野区文の里というところの原型を見ているようで素晴らしい。写真でたっぷり見てほしい。
 「出前とお持ち帰りの割合が多い」という店もこのあたりらしい。店が街そのものを物語るというのはこういうことだ。包装紙も見せてもらったが、とてもナイスな昭和デザイン。寿司も店も時代をくぐり抜けて活き活きしているのがわかる。
 しかし、押し寿司というのはすこぶる腹持ちが良くていまどき頼もしい。近所に来たら、絶対寄りそうな店。それも3〜4人で行くべし、と覚えておこう。

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江弘毅

編集者・著述家。雑誌ミーツリージョナルを立ち上げ、1993〜2005年編集長を務める。
2006年編集出版集団140B創立。著書「有次と包丁」(新潮社〕、「飲み食い世界一の大阪」(ミシマ社)など多数。毎日新聞連載中の「濃い味、うす味、街のあじ。」の単行本化、140Bから7月15日発売。

江弘毅