4月3日
大阪 北新地 旬彩堂

 本を持って行けばランチがワンコイン=500円になるという『ランチパスポート 北区・西区・福島区』を使うために、会社から一番近いカレーラーメン専門店[旬彩堂]へ行く。
 せこいなあ、などというなかれ。「700円以上のランチがワンコインになる夢のパスポート」「3、4回使えば本代の元がとれちゃいます!」と表紙にある。ハナから人間の哀しいセコさに訴える商品である。この本はグルメ・ガイドのように単純に「良い店、うまい店が載っている(はず)」という商品ではないのだ。この140ページほどの小冊子は定価1,080円ナリ。手にとってパラパラめくると正直、知らん店ばっかりやなあ、という合計101店が紹介されている。
 いや「紹介されている」というのは違うな。「そちらのランチを500円でサービスしていただけると掲載させて頂きます。お客さんいっぱい来ますよ」という、店にとっては広告代理店が持ち込む販促特集企画みたいなものだ。
 1ペ−ジ1店掲載され三文判を押す欄が3つ。即ちひとり1店3回しか行けないとのこと。読者は有効期間3月末日〜6月末日だから、行った店がおいしかったら表紙の売り文句通りそこばかり3回行けばほぼ元が取れる。

 よしさっそく「元を取りに行くぞ」。ということで北新地の[旬彩堂]へ地図を見ながら、800円を500円にしてくれるカレーラーメンを食べに行く。店はビルの1階の中に入ったかなり分からないところにあった。
 結論から言う。うまい。むっちゃ得や。
 出来て半年という新しい店だが、この季節は新タマネギ、夏はカボチャ、冬は白菜と旬の野菜ベースのスープが抜群。麺を食べた後ごはんをレンゲですくってスープにひたして食べるとカレーリソットみたいでこれまたうまい。
 五百円玉1枚を若い店主(ある日はスタッフ)に払ってスタンプを押してもらい、「うまかったですわ。客がいっぱい来たら損ですねぇ」と言うと、「知ってもらえるだけでありがたいですわ」。
 いい店をセコい動機から知ることだってあるのだ!

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江弘毅

編集者・著述家。雑誌ミーツリージョナルを立ち上げ、1993〜2005年編集長を務める。
2006年編集出版集団140B創立。著書「有次と包丁」(新潮社〕、「飲み食い世界一の大阪」(ミシマ社)など多数。毎日新聞連載中の「濃い味、うす味、街のあじ。」の単行本化、140Bから7月15日発売。

江弘毅