2月1日
神戸 丸萬

 2週間連続で、それも日曜日の昼、福原の居酒屋『丸萬』へ行ってる。
 この店はわたしのなかでは、現在関西で一番の居酒屋だと思う。とともに80年頃に御堂筋千日前通を少し入ったところにあった『中野』がなくなり、九条・源兵衛渡しの『白雪温酒場』が移転して新しくなったのがとても残念だなあと思う。
 この居酒屋はよう食うてよう飲むタイプの酒吞みが求めるすべての要素に満たされている。その真価が思いっきり発揮されるのが日曜や休日の昼だ。
 バッテラや穴子の箱寿司、カキフライやチキンフライなど食堂系のメニューが抜群である(バッテラの「シャリこま可」というのが酒吞み心をひねりまくる)。
 この日は、イワシの酢味噌やイイダコの煮付け、ウド(酢で食べる)があったので迷わず注文。ウドを食べるのなんて何年ぶりだろう。

 この居酒屋はおでんをやっていない。これは寒い時期の腹ペコには残念だと思った。そう思っていたが、この店に長い間通ううちに「あ、そういうことか」と思った。岸和田のだんじり祭の最中に、家では思いっきり炊くし、町の詰所でも食べるおでん。それはうまい。スジや玉子やら揚げやらごぼ天やらと、あれこれ食えてそれで腹もふくれるし、とにかくほかのアテが要らなくなるのがおでんなのだ。
 だからこそ逆に、うまいおでん屋のそれ以外のアテは、相当に旨いもんやないと出されへん。
 奥のカウンターで大学教員であり武道家の友人と長々と飲んでいたら、5時前頃隣に久元神戸市長が奥さんとやって来た。もともと近所の人らしい。なるほど。

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江弘毅

編集者・著述家。雑誌ミーツリージョナルを立ち上げ、1993〜2005年編集長を務める。
2006年編集出版集団140B創立。著書「有次と包丁」(新潮社〕、「飲み食い世界一の大阪」(ミシマ社)など多数。毎日新聞連載中の「濃い味、うす味、街のあじ。」の単行本化、140Bから7月15日発売。

江弘毅