4月4日
神戸 三宮 六角亭

 お好みお焼き屋でも串カツ屋でも、人が自分のために料理をつくるのが見れる店が好きだが、その最上級が板前割烹である。
 割烹は伊藤洋一さんの書いた新潮新書『カウンターから日本が見える 板前文化論の冒険』によれば、大正時代に大阪・新町に出来た[浜作]か嚆矢だということだが、「割」は即ち庖丁仕事、「烹」は火を入れることである。
 それでいうと炉端焼きは、「焼く」という料理すべてを客に開陳する飲食店舗形態だ。神戸三宮の東門街には酒造メーカー[大関]が直営する割烹が2つもあったりして、きっちり調べたわけではないのだが、神戸は炉端焼きの店が他所よりも多い気がする。
 一番よく行く[六角亭]の焼きものは抜群だ。いつも必ず注文するのが「鯛ねぎ」に「くじら」そそして「さつまいも」。
 「きょうは魚、何ありますか?」と訊いて、「ヨコワのカマ」があったのでそれを注文。濃厚なうまさ。そのあとは野菜の口になって「アスパラガス」「玉ネギ」と連発。
 フレンチやイタリアン、あるいは料亭のようにあらかじめメニューをフィックスしたりするよりも、その時その場で食べるものを決めて食べ、それで次のメニューを決める、という割烹や炉端や居酒屋のほうが自由度が高くて好きだ。ネタの良し悪しや鮮度、焼けてくる魚や野菜の具合を見るのも楽しいし、食べる前からもう「おいしい口」になる。

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江弘毅

編集者・著述家。雑誌ミーツリージョナルを立ち上げ、1993〜2005年編集長を務める。
2006年編集出版集団140B創立。著書「有次と包丁」(新潮社〕、「飲み食い世界一の大阪」(ミシマ社)など多数。毎日新聞連載中の「濃い味、うす味、街のあじ。」の単行本化、140Bから7月15日発売。

江弘毅